未完成の満月が空に昇っているので私の足下にはこんなに暗くてもしっかりと影が落ちています。頭が痛くなるような高音で秒針が進むような音が耳のすぐ隣で細かなピッチで鳴り煩わしい女の甲高い泣き声が絡まると心臓もその音に合わせてドクドクと大きな音を立てます。聞こえるはずもない音はどこからともなく現れて、急にわたしをおいてどこか遠くに行ってしまうのだ。遠くに見える東京タワーはいつも変わらずそこあるので私は安心出来るけれども、時計の針が12時を過ぎてしまっては真っ暗な海に浮いているブイのように頼りなく点滅する赤いランプを眺めるしか他ない。