サイレンが右から左へ音階を変えながら走って行く。
わざわざ遠回りをしたのはあまり帰りたくなかったからだ。
サンタの格好をした女たちは胸を揺らし
男たちの心を揺らしていた。
大人たちは脳裏にチラつく残像をかき消すように
大きな声でふーとかいえーとか言っている。
雪の降らない街ではサンタもソリを滑らすことができないのに。
あすなろの話。
あすなろは漢字で翌檜と書くらしい。
翌檜は檜に似た木だが、檜のように背は高くなれず、
あすは檜になろう、あすは檜になろう。
と念願しついには檜になれないのだ。
美しいともとれ、悲しいともとれる話。
あすは檜になろう、
そう願うは容易い。
私はいつまで私なんだろう。
いつまでも私は私でしかないのなら
いっそのこと諦めるんだ。
あすなろという固有
私という固有
まずは認めよ。
やれ、今日も取留めなく巡る思考。
布団の中は静か過ぎて
脳みその細胞がぷすぷすと破壊されていく音が聞こえる。
どこかで根を生やすあすなろよ、今夜はおやすみなさい。
明日はその枝が天に届くだろう。