地球に大きな月の影が落ちていた頃
皆は空に浮かぶ黒い月を眺めていた。
太陽に導かれ、いつもの場所から離れ、
ゆらゆらと風に揺られた。
どの道を選んでも結局たどり着くあの場所は
昔は容易く足を運んでは、息をつき、
身を委ね、身体を休めては、心を潤していた。
今、そこへ行こうにも、
立ち入り禁止の看板の前で呆然と立ち尽くすしかなく、
その先にある、あの場所に変わりがないかと、
つま先立ちをし、首を伸ばし、目を凝らしては、
時に蚊の鳴くような声で尋ねるのだ。
「お変わりありませんか」
わたしは、ここから、
たんぽぽの種をふっと吹きますから
時間がかかってもいいです。
どうかあの場所で豊かな花を咲かせて下さい。
皆がか細くもまぶしい太陽を眺めている間、
願い事をすれば叶えば良いのにと
残像が残る目を凝らして
一秒ごとに形を変える太陽に
どうかお願いですと願い事をしていた。