馴染みのない駅名を聞きながら
ついさっき買った文庫に目を落とせば、
不意に目に入ってきた地元の駅の名前。
小説の中の主人公が、
私の生まれ育った街で暮らしているという偶然。
私は慣れない土地に身を置き、
頭でふるさとの電車の色や風景を思い出いていた。
青い電車だとか黄色い電車だとか。
遠くに見える富士山だとか、真っ赤な夕日だとか。
窓から見えるラブホテルの看板だとか。
そういうものたちを
真っ暗な地下鉄の窓に重ねて眺めたのだ。
やっと足を運んだ福岡で、
改札の向こうには、見慣れた顔が立っていて、
卒業アルバムを見せられたような、妙な安堵を覚えました。
みんな相も変わらずに、でもちょっとずつ大人になっている。
わたしは何が変わったのだろう。
わたしは今何を誇りに思って過ごしているのだろう。
少し前を振り向いて、ずっと先に目を凝らす。
どうも、今をじっと見つめることができない毎日です。